2021.02.12 00:12
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2020.11.03 02:02
体温と同じくらい、またはそれ以上の気温が続いていたが、長い、長い夏がようやく終わりつつあるのではないだろうか。
夜の時間帯が近付くにつれ、それはより強い確信に至る。
半袖で過ごすのに丁度良い涼しい夜風が、秋の訪れを知らせてくれる。
『世界のSFキッチンから("サイファイ"と呼んで欲しい)』
第1回目は夏の終わり、秋の始まりに読みたくなるSF作品。
エマノンシリーズ一作目にあたる『おもいでエマノン』からお送りします。
出典: 菩提樹 水道橋店写真ギャラリー
本作の時代は1967年。
季節は、夏でも秋でもない冬。そして、夜。
舞台は船上。主人公はn回目の失恋を機に出発した感傷旅行の帰路にいた。
船内には、泥酔した老人たちが屯っていた。
そのうち、酒が回って呂律が回らなくなった何人かが、見知らぬ美しい少女にちょっかいを出し始めた。
運命的な出会いも悪くない、と思った主人公は、彼女と甲板に出て、夜風に当たることにした。
出典: 洋食 入舟|しながわ観光協会
少女は自身の名を、エマノンと名乗った。
二人は船内のレストランで食事をすることになり、エマノンはエビフライ定食とビールを注文した。
そして、エマノンは、目の前に注がれたビールを前に、「肉体年齢は17歳」だと話し始めた。
「私の記憶は約30億年前からあるの」
エマノンは果てしなく続く、生命の物語について話し始めた。
サクサクとしたエビフライの衣の食感は、アルコールとの相性はピッタリだろう。
少し油っこいなと思ったら、付け合わせのサラダを口に運んで。
たっぷりのキャベツと、みずみずしいトマトが、油っこさを忘れさせてくれる。
アルコールが、淡々と、地球で起きたことを、彼女が体験した歴史を呼び起こす。
もともとSF好きの主人公は、ミステリアスなエマノンに惹かれていった。
食事のあと、再び甲板に出て、寒さを忘れて彼女とじゃれ合い、キスをする。 再び船内に戻ると、二人は薄い毛布にくるまって眠りについた。 次に目を覚ますと、エマノンの姿はどこにもなかった。
ほんの十数時間程度の二人の時間だった。
30億年の記憶を持つエマノンにとって、十数時間も十年も、ほんの一瞬だ。
旅の帰り道、見知らぬ少女と船内で出会い、SF好きの主人公の好奇心を満たすエピソードや人間離れした美しい外見に惹かれ、食事を共にし、彼女はどこかへ消えてしまう。
恐らく、どこかで生きている。
彼女はどこかで出会いと恋愛を繰り返していくのだろう。
燃え上がるような夏らしい濃厚な恋愛作品をたっぷり味わった後に、
ぜひ本作を手にとってみて欲しい。夏よりも短く儚い秋の季節にピッタリな SF×恋愛作品『おもいでエマノン』をご堪能いただきたい。